高校時代に下宿していた当時を思い出させる昭和チックな佇まい。各部屋のドアも薄く、
廊下を誰かが歩くと足音だけではなく気配までが僕のいる室内に伝わってくる。もともと
ある程度の女性が宿泊しているものと仮定してこの宿をピックアップした訳だが、あいに
く本日の女性宿泊者は2名。しかも、うち一名は高齢者・・・女子高生や女子大生の合宿
に遭遇出来るんじゃないかと淡い期待をもってしまっていたのでこの落差には正直参って
しまった。

すでに諦めモードに入り込んだ僕は「おならの残り香でも嗅げればいいや」と半ば焼けっ
ぱちで早寝を決め込む。トイレに人の出入りがある時間帯に排便やガス抜きが行われる
可能性は少ないだろうという打算もあった。事実それまでの間に数回トイレに出入りがあ
ったがその全員が男性であった。高齢の婦人もこの時点ではトイレを使っている様子は
無かった。

眠りについてどれくらい経っただろうか、僕は廊下から聞こえてくる女性の声で目を覚ま
した。時計を見ると眠りについてからまだ一時間も経っていない。聞こえてくる声のトーン
からみてどうやらあの水商売風の女性のようだ。携帯電話で誰かと盛り上がっている。
なんで部屋の中で電話をしないんだろうと思うと僕は段々腹が立ってきた。きっとこの女
的には部屋にいる彼氏に対する気遣いがあったんだろうが結果としてそれがこのフロア
にいる彼氏以外全員に迷惑を掛けている状況を生んでいる。

見た目もアレなら中身もアレだ・・・。

にしても電話がなかなか終わらない。寝酒に飲んだビールのせいかおしっこがしたく
なった僕はトイレへと向かう。部屋の扉を開けた瞬間に廊下で電話中の女と目が合う。
にこやかに挨拶するのもなんなんで僕は軽く会釈だけをした。しかしなぜかその女の
表情から敵意のようなものが見て取れた。いや、俺はおしっこがしたいだけでクレーム
をつけに来たわけじゃないんだけど・・・。すっかり気持ちが萎えた僕はそのあと再び
眠りについた。もうふて寝だった。