小心者の僕は一気に心拍数が上がった。同時にいろんな事が頭の中を廻りだす。

「どうしよう・・・」
「警察沙汰・・・?」
「っていうか・・・そもそも俺は何の罪?」
「彼氏に殴られる!」

挙動不審になるのはやましさの証となってしまうので必死に平静を装いながら2人の
横を通り過ぎる。軽く会釈したときに2人の表情を一瞬見たが、先ほどと同じく敵意に
満ちた表情の女に対し彼氏の方は穏やかな表情で僕に会釈を返してくれている。

どういう事だ?

そのまま2人はトイレの中へ入っていく。僕は自分の部屋に戻り2人の様子に聞き耳
を立てた。トイレの中で2人が軽い口論になっている。内容が気になるがさすがにそこ
までは聞こえなかった。すぐに2人がトイレから出てくる。2人の部屋はトイレから出て
僕の部屋の前を通ってからの廊下の反対側だ。

「・・・~絶対にそうだって!」半分くらいしか聞こえなかったが女が何かを彼氏に訴え
ている。彼氏はそれに対しウ~ともア~ともつかない生返事をしていた。近づいてくる
足音。足音が僕の部屋の前で止まる。

「え?マジで?」頭の中が真っ白になり鼓動がMAXに跳ね上がった。

その刹那、ドドッ!っという大きな足音とともに彼氏の「いいから!こいっ!」という声が
聞こえてきた。同時に「イヤッ!」という女の甲高い声が聞こえたところをみると彼氏に
強く腕でも引かれて強引に連れて行かれたのだろう。さしずめ僕のドアに向かって何か
をしようとしたのかノックをしようとしたといったところか。その女をロックオンしていたつも
りがいつのまにか逆にロックオンされていた訳だ。いったい何が起きたのかは未だに理
解できないし何を疑われていたのかもよく分からないけれど・・・あのオンナ酔ってたの
かな?まぁ、どちらにしても彼氏グッドジョブ!

そのまま眠れずにチェックアウト開始時間を待って宿を発った。
この宿は十分に期間をあけてからまたチェックしにこよう。