とりあえず風呂にでも入って作戦を練ろう。確か24時間入れる大浴場が一階に
あったはずだ。やおらタオルを持って廊下に出ると真夏なので外はすでに明るく
なっていた。しかしこの時間から起きている客はほとんどいないらしく館内はしん
としている。
一応廊下の逆方向にあるトイレに寄ってみる。男女ともに誰もいないようだ。それ
にしても男性用のトイレに使用感がそれほどないのが気になった。寝る前に小用
のために使った時とそれほど変化がない。というか大小便器や洗面台に目立った
汚れや水跡がない。夜中に清掃をするような施設とは思えないのでこれは昨日の
晩から今朝にかけてこのトイレ自体の使用がほとんど無かったことを意味するのだ
ろう。寂れたホテルとはいえ昨日チェックインしたときに結構宿泊客らしき人を見か
けたし部屋に入ってからも廊下から聞こえてくる声を何度も聞いた。宿泊客はそこ
そこいるだろうと思われるがこれは一体どういうことだ?普通に利用者がいればも
う少し使用感が漂ってもいいはずなのに・・・。
いろいろ考えながら大浴場に到着する。大浴場の使用感はものすごかった。
脱衣場に放置されている脱衣カゴやバスタオル、洗面台にそのままにされている
使用後のブラシやトニックの瓶、浴室内の椅子や桶も軽く散乱している。やはりあ
る程度の宿泊客はいるようだ。誰もいない貸切状態の湯船にゆっくり浸かる。
「口コミに書いてあった共用トイレって男女別の共同トイレって意味だったんだな・・・
まっ、部屋数を考えればこの規模の施設のトイレが男女共同なんてことは有り得
ないわな・・・っていうかそれだと各部屋にトイレがないっていうのもおか・・・しい・・・
ぞ・・・あっ!そういえば!」
男女共同トイレに対する願望が強すぎて僕はどうやら思い込みをしていたようだ。
急いで風呂からあがり自室のあるフロアに向かう。この時間でもまだ人の動きは
ないようだ。相変わらずしんとした廊下を歩く。
あった!意識しなければ殆どの人は気付かないだろう。廊下の途中に長さ1メー
トルほどで高さ10センチ程度の傾斜があった。
「これって増築した際の高さ調整じゃないか?」
自室に戻りテーブルの上に置いてあった館内案内を開く。
「ここ旧館じゃん・・・」
なんてことのない話だった。廊下の継ぎ目から先の階段やトイレまでの間が旧館で
その反対側にあるエレベーターホール付近が新館だった訳だ。フロアの見取り図を
見ると休館の部屋にはトイレがなく階段前のトイレを共用する仕様になっている。
そして新館側の部屋にはトイレが設置されているじゃないか。
口コミは旧館を使った人が投稿したものだったという事だ。
「という事は昨日チェックインの時に見た人や廊下から聞こえてきた声の人たちは
新館側に泊まってる人達だったんだな・・・」
風呂あがりという事もあり急に脱力感に襲われる。この2日間の僕は完全に欲望
に支配された空回り状態だった訳だ・・・。
トラックバック URL
http://www.blog.puripuriunkomura.com/1027/trackback